不倫相手の求償権とは?10分でわかる、求償権について弁護士が解説

みなさんは「求償権」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?少し難しい言葉なので、法律にあまり携わったことがない方は、聞いたことがなくてもおかしなことではありませんね。

求償権は、読み方を「きゅうしょうけん」といって、簡単に説明すると「AさんのためにBさんがCさんに支払いをしたときに、BさんがAさんに対して支払いを求められる権利」のことです。

ではこの求償権が、不倫問題とどのように関わってくるのでしょうか?
というわけで今回は、不倫相手の求償権について、弁護士がわかりやすく解説します。

知らないと損する求償権とは

不倫問題において、求償権の存在を知らないでいると立場によっては損をすることになります。
求償権が登場するのは、不倫慰謝料の支払いがあった場合です。冒頭で説明したようなABCさんではなく、実際の当事者を使いながら、以下にてわかりやすく解説していきますね。

不倫の求償権とは

まず、不倫問題における求償権とは、慰謝料の支払いがあった場合に生じる可能性があります。

具体的に言うと、旦那さんと奥さん、そして旦那さんと不倫をしていた不倫相手がいたとします。奥さんは不倫相手に対して100万円の慰謝料請求をし、不倫相手がそれを支払ったとしましょう。

こちらは詳しくは後述しますが、本来、不倫慰謝料の支払い義務というのは、不倫をしていた旦那さんと不倫相手の双方に生じます。不倫相手が奥さんに対して100万円支払ったのは良いですが、それでは旦那さんが支払い義務から免れることになります。これを阻止するため、不倫相手は求償権を行使することで、旦那さんに対して50万円の支払いを求めることができる、というわけです。

求償権の具体例を図解で解説

では、言葉だけだとわかりにくいと思いますので、具体例について図を使って解説してみましょう。

旦那は不倫をしているが、奥さんと旦那は離婚しない

図のように、不倫相手と旦那さん、奥さんがいたとしましょう。奥さんは夫婦円満に戻りたい希望が強かったため、旦那さんの不倫を許し、離婚はしないことに決めています。

奥さんは旦那には慰謝料請求をせず、不倫相手にのみ慰謝料請求

しかし、不倫相手のことは許せなかったため、慰謝料請求をすることにしました。旦那さんに対しては、すでに不倫は許していますし、離婚もしないことに決めているので慰謝料の請求はしないことにしています。

不倫相手は、奥さんには慰謝料を支払い、旦那には支払った半額を請求(求償)。

奥さんからの請求に対して、不倫相手は慰謝料を支払いました。しかし、不倫相手は旦那さんに対して自身が支払った半分の金額を請求してきました。これがまさに求償権を行使した、という状態です。

請求額が100万円の場合、不倫相手は旦那に50万円請求することができる

奥さんは不倫相手に対して100万円を請求していて、これを不倫相手は単独で支払っています。よって、不倫相手が求償権を行使する場合、旦那さんに対して50万円の支払いを求めることができるというわけです。

不倫当事者2名が債務を負うことになる不真正連帯債務とは

なぜ、上記のようなことが起こるのでしょうか?
そもそも、不倫慰謝料の支払いというのは「不真正連帯債務」といって、不倫当事者の2人が債務を負うことになるものの、どちらに対して、どんな割合で請求しても良いものとされています。よって、奥さんが不倫相手に「だけ」全額請求したのは、不倫慰謝料は不真正連帯債務なのだからおかしなことではありません。

しかし、実は、不倫というのは法律上「共同不法行為」といって、旦那さんと不倫相手の双方が、奥さんに害を与えたと考えられています。よって、本来旦那さんが負うべき責任(今回で言えば慰謝料の支払い)について、不倫相手が負担したとなれば、その負担分を旦那さんに請求できる(求償権を行使できる)というわけです。

そして、この求償権は「奥さんが旦那さんに慰謝料を請求していない」「不倫をすでに許している」といったこととは関係なく発生する権利となっています。よって、上記のようなことが起こるというわけです。

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今後の方針によって異なる求償権の考え方

求償権をどのように考えるかは、夫婦の今後の方針によって大きく異なることになります。
離婚をする場合、婚姻を継続する場合、それぞれ詳しく見ていきましょう。

離婚をする場合

離婚をするのであれば、求償権についてはあまり考えなくても良いと言えます。なぜなら、不倫をされた奥さんの立場からすれば、請求した慰謝料が全額手元に入ってくればなにも問題はありません。どちらがどれだけ負担するかといった話し合いは、旦那さんと不倫相手との間で勝手にやってもらえば良い話です。

こうした点からも、離婚が前提であれば両者に対して請求するのが一般的と言えるでしょう。

なお、不倫問題が原因で離婚をする場合、慰謝料は高額になるケースが多いため、相場についても知っておいてくださいね。


 

婚姻を継続する場合

婚姻を継続する場合、求償権の取り扱いについてはしっかり考えなくてはなりません。

そもそも、夫婦というのは婚姻中に築いた財産は共有財産となります。となれば、旦那さんから慰謝料を支払ってもらっても、夫婦間ではあまり意味がないと言えますね。それゆえ、婚姻を継続する場合であれば、不倫相手にだけ慰謝料請求をするのが一般的です。しかし、不倫相手に求償権を行使されると、旦那さんは支払われた慰謝料の半分を返還しなければならなくなります。となれば、夫婦生活における収支で見てみれば、実質的に支払ってもらった慰謝料は半額、といっても過言ではありません。

一応ではありますが、旦那さんが不倫相手から求償された支払い分は、夫婦の共有財産以外(婚姻前からある旦那さんの固有財産)から捻出する、という考え方ができなくもありません。
しかし、婚姻を継続する前提であれば、求償権を行使されるのは回避できるに越したことはないですよね。実は、求償権は不倫相手側に放棄してもらうことも可能となっているのです。

請求した側、請求された側の求償権の対応方法


では、慰謝料を請求した側、請求された側の求償権の対応方法について解説していきましょう。
これを知っていると知っていないとでは、大きく損をすることになるため必ず読んでくださいね。

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慰謝料を請求する側は求償権を放棄してもらう

慰謝料を請求する立場の場合、不倫相手には求償権を放棄してもらうのが理想的です。
とはいえ、自身が損をする条件を不倫相手が素直に飲んでくれるとは限りません。そういった場合は、請求する慰謝料を相場より低くするなど、一定の譲歩が必要になってきます。

金額を下げるなんて…と考える気持ちもわかりますが、求償権はそうまでして放棄させる価値があります。というのも、不倫相手に求償権を放棄してもらうことで、その後、求償権を理由に旦那さんとの関わりを持つことを阻止できます。不倫相手とは金輪際関わってほしくないですからね。

しかし、もし不倫相手側に求償権を放棄してもらうことができない場合は、弁護士に介入してもらうのも良い方法です。特に、一度放棄を拒否してきた相手は、求償権がどういったものかを知っている、もしくは調べている可能性が強いです。交渉は困難を極めることからも、弁護士に任せるのが賢明と言えます。

慰謝料を請求される側は求償権を行使しよう

逆に、慰謝料を請求される側の場合は、求償権を行使するに越したことはありません。求償権を行使することで、自身の負担分を超えて支払った慰謝料の一部を返還させることができます。

なお、相手が離婚する場合ではそれほど難しくはありませんが、婚姻関係を継続する場合、奥さんが間に入ってきて、求償分を簡単に支払ってもらえないケースが多く見受けられます。そうなった場合、裁判を提起するなど、法的手続きを利用する他、返還を求める方法がありません。
こうした点からも、慰謝料を請求された側の場合は、求償権の行使を前提とした示談をするのではなく、慰謝料そのものの金額を自身に無理のない範囲に引き下げる交渉が有効です。

とはいえ、相手も慰謝料の回収に必死であるため、話し合いが平行線になることもめずらしくはありません。そうなった場合は、弁護士に相談・依頼をし、示談交渉を進めてもらうのが賢明と言えるでしょう。

求償権に関わる問題点の回避方法


では最後に、求償権に関わる問題点と回避方法についても解説していきます。
求償権は正しい理解をしていないと、後で足元をすくわれる可能性が十分にあります。
以下をよく読み、求償権がどういった性質かを正しく理解するようにしましょう。

当事者間だけでの合意では、求償権は放棄できない

実は、当事者である不倫をされた奥さんと不倫相手との合意だけでは、求償権を放棄したことにはなりません。というのも、そもそも求償権というのは、奥さんと不倫相手との間に生じているわけではなく、旦那さんと不倫相手との間に生じている問題で、それを放棄するとは、不倫相手から旦那さんに対して「免除」という法律行為をするという事です。よって、奥さん側と求償権の不行使を約束したからといって、旦那さんとの間では、行使を拘束される理由がありません。本当の意味で求償権を放棄させたいのであれば、旦那さんと不倫相手との間や旦那さんも含めた三者間で契約を結ばなければならないのです。

こちらを回避する方法としては、示談書に「不倫相手が旦那さんに対する求償権を放棄する」といった内容で免除の意思表示を正確に明記して証拠化しておくことです。奥さんと不倫相手との合意だけでは、厳密に求償権の放棄は成立しない点に注意しましょう。

当事者間での負担割合を決めておこう

すべての求償権トラブルを回避する1つの方法として、奥さんと旦那さん、不倫相手との間で「それぞれの負担割合について決めておく」、という方法があります。こうすることで、不倫相手が自身の負担分を支払った段階で、求償権云々の話はなくなります。特に婚姻関係を継続する場合、実際に夫婦間で金銭のやり取りをするかは置いておいて、不倫相手の求償権については心配する必要がなくなります。

後になって不倫相手から求償権を行使する、といった連絡がくることもありません。当事者全員で負担割合の合意をすることは、不倫慰謝料問題をトラブルなく解決する方法としては理想的と言えるでしょう。

口約束ではなく、きちんと示談書を作成しよう

当事者間で慰謝料や求償権について合意する際は、口約束だけではなく、きちんと示談書を作成するようにしてください。これは不倫慰謝料問題に限ったことではなく、すべてのトラブルにおいて非常に重要です。
というのも、口約束だけでは、後になって「言った!言ってない!」と水掛け論が生じる恐れがあります。「慰謝料を支払うといったのに支払ってくれない…」、「でも支払うといった証拠になるものがなにもない…」、となってしまっては、相手と交渉をした意味がまるでなくなってしまいます。こうしたトラブルを防止するためにも、きちんと示談書を作成するようにしてください。

なお、一番確実なのは示談書を公正証書化することです。
公正証書とは、公証役場で公証人の立ち合いのもと作成される書面のことで、より証拠力が強い示談書を作成できます。公正証書を作成する際は、「強制執行認諾約款(きょうせいしっこうにんだくやっかん)」付きの示談書を作成するようにしてください。この約款さえあれば、もし支払いが約束通りに履行されなかった場合、裁判手続きなどを経ることなく、強制的に相手の財産を差し押さえることができるようになります。

不倫相手が示談書作成の場で、即座に慰謝料の支払いをするのであれば公正証書化までする必要はありませんが、支払いが後日になる場合は、より確実にするために公正証書化も視野に入れましょう。

まとめ

求償権というのは、一般の方からすれば普段使い慣れない言葉であり、理解すること自体なかなか難しいのが現実です。インターネットで検索するなど、独学で求償権を調べるだけでは危険が伴います。
相手に理解の穴をつかれ、結果として損をしてしまうケースを避けるためにも、わからないことは法律のプロである弁護士に相談するのが賢明です。

また、不倫慰謝料問題は最終的に示談書の作成が必須となります。法的に有効でない示談書では、後のトラブルになる可能性がありますし、何より慰謝料を確実に支払ってもらえる保証もありません。相手がスムーズに支払ってこないとなると、許せない気持ちから感情的になってしまい、その際の発言が自身の首を絞める危険もあるのです。

しかし、弁護士であれば法的に穴のない示談書の作成が可能ですし、公正証書化のサポートも行うことができます。相手が素直に支払わない場合は、強制執行手続きに移ることもできます。相手からの支払いをより確実にできる点は、まさに弁護士に依頼するメリットと言えるでしょう。

もし、相手から求償権の話題が出てきたり、慰謝料の支払いに不安があったりする場合は、弁護士への相談を強くおすすめします。

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