財産分与の時効は2年ではない?多くの方が間違える時効と除斥の違いとは

離婚というのは、どうしてもストレスが溜まってしまうものです。中には離婚だけ先に済ませてしまって、「財産分与は落ち着いてから…」と、考えている方も多いのではないでしょうか。
しかし、財産分与というのは、いつでも好きなタイミングで出来る手続きではありません。

ところで、みなさんは「時効」という言葉を耳にしたことがありますか?
法律に詳しくない方でも、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
法律の世界には消滅時効といって、権利が消滅するまでの期間が定められています。時効期間を過ぎてしまうと、自らの権利を行使することが出来なくなってしまうのです。

実は、財産分与にも同じように期限が定められています。
いつまでも放っておくと、財産分与を求めることができなくなる、というわけですね。

さらに厄介なことに、財産分与の場合は時効とは少し違い、「除斥期間」が適用されることになっています。
この除斥期間というのは、時効と違って中断や延長といった手続きが存在しません。

そこで今回は、財産分与の際は必ず注意したい、時効と除斥の違いについて詳しくご説明します。

財産分与の請求期限は2年


結論から言いますと、財産分与の請求期限は離婚成立から2年間と定められています。これを過ぎてしまうと、後述するように除斥期間が適用され、相手に財産分与を請求する権利が失われてしまいます。

実際のご相談でもよくある例を出しますと、離婚前後というのは、荷物の整理や引っ越し、子どもの転入手続きや新しい職場を探す等々、なにかとバタバタしてしまうものです。財産分与を後回しにしてしまっている方は多くいらっしゃいます。さらに、離婚後の新しい生活というのは、想像以上に大変なことも多く、「気付けば財産分与をしないまま2年が経ってしまった…」という方も現実にはいらっしゃるのです。こうなった場合、相手が親切に応じてくれない限り、財産分与そのものが出来なくなってしまいます。

財産分与ができない事態を避けるためにも、請求期限は2年間と頭に入れておきましょう。

財産分与は時効ではなく除斥期間が適用される

財産分与では、時効ではなく除斥期間が適用されます

時効は、ある一定の事実状態が一定期間継続した場合には、真実かどうかを問わず、その事実状態を尊重して権利の取得、喪失という法律効果を認める制度です。具体例でいうと、10万円借りていて返済しなければいけないことは知っていたが、支払わないまま5年経過した。よって時効期間5年が完成し、「時効だからもう返済しないよ」と主張すれば、返済しなくてもよい。ということになります。(時効成立要件については、個別にそれぞれ決まっております)この場合、時効が成立しないように裁判をしたり内容証明郵便等で督促するなどの方法によって、時効期間が延長されます。

対して、除斥とは、法律で決められた期間内に権利行使しないと、その権利が消滅してしまう。というものです。この除斥期間は中断や延長といった概念がありません。また相手方に言わずとも効果が生じます。

援用 中断 起算日
時効 必要 できる 権利を行使できると知った日から
除斥 不要
(自動的に権利が消滅する)
できない 権利が発生した日から

離婚後の財産分与を請求できる期間は離婚後2年以内となります。この期間が過ぎると請求することはできません。もちろん弁護士に依頼したとしても、請求する理由がないため対応できません。また除斥期間というのは非常に厳格で、期間経過後に適用から外れた裁判例は、過去にたった2件しか認められていません。

しつこいようですが、離婚成立から2年間が財産分与のリミットなのだと必ず覚えておくことと、期間が迫ってしまったら弁護士に相談するようにしましょう。相手方も除斥期間が満了する日を知っています。携帯番号を変えた、引っ越ししてしまった、などいきなり連絡が取れなくなってしまうこともあり得ます。中途半端な連絡は相手にそのきっかけを与えてしまうかもしれませんので要注意です。

そもそも財産分与の対象になる財産とは

では、そもそも財産分与の対象になる財産にはどういったものがあるのでしょう。
請求できる財産、請求し忘れている財産がないかチェックしてみましょう。

財産分与の対象となるのは、婚姻期間中に夫婦が築いたすべての財産となります
具体的には、現金や預貯金はもちろん、家やマンションといった不動産、自動車や金銭価値の高い動産類、株や有価証券、生命保険や学資保険、年金や退職金、などなど多岐に及びます。

さらに詳しく知りたい方はこちら

こうした財産も離婚成立から2年間の経過で請求できなくなってしまうのです。離婚後の新しい生活を充実させるためにも、まだ財産分与をしていない資産がある方は着手を急ぐようにしてください。

離婚後2年が間近になっている場合の対処方法

では、もし離婚後2年が間近に迫っている場合、どのように対処すればよいのでしょうか?
この場合の主な選択肢は、「家庭裁判所に調停を申し立てる」、「弁護士を入れて相手と話し合う」の2つです。

もちろん、相手と2人で話し合うという選択肢もあるにはありますが、相手が除斥期間を意識していた場合、話し合いをわざと長引かせてくる危険もあります。上述したように、除斥期間には中断も延長もないため、離婚後2年が間近に迫っている方は、以下の方法にて対処することをおすすめします。

家庭裁判所に調停を申し立てよう

家庭裁判所に「財産分与請求調停」を申し立てることで、除斥期間の経過を回避できます。
そもそも調停というのは、家庭裁判所にて裁判官と有識者を交えてする話し合いの場という意味合いが強い手続きです。あくまでも話し合いであるため、一見すると相手が応じてくれなければ意味がない手続きにも見えます。相手が調停の場に出てきてくれない、といったケースも現実には散見されます。

しかし、財産分与請求の場合は、たとえ調停が不成立だったとしても、自動的に「審判」という手続きに移行されることになっています。この審判というのは、裁判官が強制的に判断を下すため、財産分与問題が解決しないまま放置される心配がありません。財産分与の配分を裁判官が強制的に決めてくれるというわけです。
さらに、調停や審判という裁判所の手続きを経由することで、除斥期間は廃除され、手続き終了後から新たに10年という時効期間がスタートすることになります。
つまり、除斥期間経過前に調停を申し立てることで、請求期限の心配はひとまずなくなるというわけです。
財産分与請求調停の申立書ダウンロード
(https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_kazityoutei/syosiki_01_26/index.html)

弁護士を入れて相手と話し合おう

調停を申し立てる、といっても手続きがわからない方にとっては簡単なことではありませんね。
もし、調停の申立てに不安を感じているのであれば、弁護士を入れて相手と話し合ってみましょう。

弁護士であれば期限についてはもちろん、あなたの受け取り分も含め、財産分与請求権をしっかりと守ってくれます。また、弁護士から連絡が来ているというのに放置できるという方は、なかなかいるものではありませんね。とはいえ、中にはそれでも話し合いに応じない方というのはいらっしゃいます。

そういった場合も、弁護士がついていれば調停の申立てを代わりに行ってもらうことができます。書面の作成はもちろん、裁判所とのやり取りまで任せることができるため、弁護士に手続きを依頼した段階で、除斥期間の心配は一切なくなったといっても過言ではありません。

なお、弁護士に相談する際は、離婚成立日をしっかりと伝えておくようにしてくださいね。

除斥期間が過ぎても財産分与できる2つのケース

では、離婚成立からすでに2年間が経過している方は、財産分与を諦めなければならないのでしょうか?
実は、除斥期間経過後であっても、財産分与が一切できないわけではありません。「相手が悪質な財産隠しをしていた場合」と「お互いが合意する場合」、手続きはまだ間に合う可能性があります。

除斥期間2年を延長できる方法は基本的にはない

まず、原則として必ず知っておきたいのが、除斥期間2年を延長できる方法は基本的にはありません。調停を申し立てようとしても、裁判所側に受理してもらうことができないのです。除斥期間によって財産分与を請求する権利そのものがなくなってしまうのだから、こればかりはどうしようもありません。
よって、以下の2つのケースはあくまでもイレギュラーなものとして理解するようにしてください。

相手が悪質な財産隠しをしていた場合

相手が悪質な財産隠しをしていた場合、除斥期間経過後であっても実質的に財産分与の請求ができます。
この場合は、厳密に言えば財産分与請求権ではなく、「不法行為に基づく損害賠償請求権」が根拠となります。簡単にご説明すると、「相手が離婚時に財産隠しをしていて、本来受けられるはずであった財産分与を受けられなかったため、その損害を請求する」というわけです。

財産分与というのは、夫婦の共有財産をすべて開示し合うのが原則です。相手がこのルールを守っていなかった場合、2年間隠し通せば財産を守れるということになってしまいます。これを阻止するために、騙した側には不法行為が成立、財産分与とは別に損害賠償請求権を行使することが可能になるというわけです。

なお、不法行為に基づく損害賠償請求権の時効は3年間となっているため、相手の財産隠しを知ってから3年以内であれば請求可能です。また、こちらにも除斥期間が定められていて、不法行為から(離婚成立時から)20年の経過で権利が消滅する点に注意しておきましょう。

お互いが合意する場合

除斥期間が経過していたとしても、お互いが合意する場合は財産分与が可能となっています。
そもそも除斥期間というのは、法律上の請求権が失われるというだけであって、請求そのものを否定する効力まではありません。たとえ離婚から2年以上が経過していたとしても、こちらの請求に相手が応じるのであれば、離婚時点での預貯金の分配や、不動産の売却代金の清算といった財産分与を受けることが可能です。財産分与において優先されるのは法律ではなく、お互いの意思というわけです。

ただし、相手がすんなり財産分与を受け入れてくれるとは限りませんし、何より離婚後に自らが損をする取引に応じるか?という問いに、イエスと回答する方は少ないのではないでしょうか。
こういった意味でも、やはり財産分与は2年間の除斥期間前に解決するに越したことはありません。

また、税法上、離婚から2年以上経過した場合の財産の受け渡しは財産分与とはみなされず、贈与があったと判断される可能性が強くなっています。通常、財産分与に税金が課されることはありませんが、この場合は贈与税等が課される恐れがあることからも、決しておすすめできる方法ではありません。

財産分与の話し合いをまとめるために知っておくべき3つのこと


では、除斥期間内に財産分与の話し合いをまとめるためには、どういった点を知っておくべきでしょうか。
具体的には、以下の3つについて知っておくと、スムーズな話し合いになる傾向が強くなっています。

不動産で揉めるときは売却を視野にいれよう

離婚時の財産分与でもっとも揉めやすいのが、資産価値として高額になることが多い不動産です。
離婚時にどちらが住むかといった問題もありますし、共有名義を解消するのであれば単独名義になる側が相応の支払いをすべきです。しかし、預貯金次第では双方が納得する清算ができない場合も当然ながらあります。なにより不動産というのは、性質上、きれいに2等分することができません。不動産の問題が離婚後いつまでも解決しないでいると、あっという間に除斥期間を迎えてしまう危険性があります。

こうしたトラブルを回避するためにも、不動産は売却を視野に入れてみましょう。売却により現金化できれば、きれいに2等分にすることも容易です。離婚問題というのは話し合いが長引いてもお互いのためにはなりません。不動産で揉める場合は、いっそのこと売却を提案してみることをおすすめします。

現在の収入支出のバランスをできる限り聞いて確認しよう

離婚後の財産分与の話し合いは、できるだけスムーズに進めるためにも、離婚時の収入支出のバランスを前提にするのではなく、現在の相手の状況を可能な限り確認、そして優先するよう譲歩するのもコツの1つです。

離婚後というのは、生活そのものが変わることになります。中には、婚姻時と比べると収入支出のバランスが変わったという方も多くいらっしゃいます。会社から支給される家族手当や扶養控除などがありますね。収入が減ってしまったとなれば、離婚時の収入支出を前提にされても困る、といった方がいるのは事実です。もちろん、離婚の財産分与なのだから、離婚時を前提に話し合われるべきではありますが、あまり話がこじれてもあっという間に2年が経過してしまう恐れもあります。話し合いが長引くのを回避する意味でも、相手の現在の収入支出のバランスを確認し、譲歩できるところは譲歩するように話し合いを進めていきましょう。

事前に弁護士に相談しよう

事前に弁護士に相談することで、財産分与の話し合いをスムーズに進められる可能性がぐっと高くなります。

そもそも財産分与というのは、離婚する夫婦にとってトラブルになりやすいのは言うまでもありません。あの時はこう言った!言ってない!といった水掛け論になるケースも多くなっています。となれば、冷静な話し合いなどできるはずもなく、離婚後にせっかく話し合いの場を設けたとしても、この日は言い合いだけして終わりなんてことにもなりかねないのです。

一方で、弁護士であればこうした感情的な話し合い発展することはありません。あくまでも冷静に、目的である財産分与についての話し合いのみに専念できます。もちろん、あなたにとって適正な配分を提案・確保してもらえますし、相手も弁護士からの提案であれば納得せざるを得ないことも多いでしょう。

また、いざという時は調停の申し立ても任せられます。必ずあなたの強い味方になってくれることでしょう。
依頼するか迷っているという方は、まずはご相談だけでもご利用してみてはいかがでしょうか。

まとめ

離婚時の財産分与は時効ではなく、除斥期間が適用されるため、2年間という期限だけはどうしても延ばすことができません。可能であれば、離婚成立前に財産分与はしておくべきです。しかし、さまざまな理由で話し合いがまとまらないこともありますし、事情次第では離婚を優先させることがあっても仕方がありませんね。

そこで、もし、離婚後にまとまっていない財産分与の問題があるのであれば、調停の申し立てや弁護士への相談・依頼を検討してみてください。話し合いが進まないまま2年が経過してしまえば、財産分与を求めるのは困難が伴いますし、なにより相手次第では可能性が完全に失われてしまいます。

婚姻中に築いた財産はたとえ相手名義であろうと、あなたにも受け取る権利があります。自らの財産分与請求権をしっかりと行使し、離婚後の新しい生活を安定させる糧にしてくださいね

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