円満に熟年離婚を実現するための準備6ステップ

夫の定年退職や子供の独立など、ライフステージの変化に伴い熟年離婚を考えている方は多いと思います。

しかし、熟年離婚を考えていても、どんなことを準備しておけばよいか、離婚後の生活は大丈夫か、悩みはつきませんよね。できるなら、争いが起こることなく円満に離婚を実現したいものです。
そのためには、しっかりと事前準備をすることは欠かせません。

では、円満な熟年離婚を目指すにはどんなことを準備しておけばよいのでしょうか。
この記事では、あなたが熟年離婚を考えたときに、円満な熟年離婚を実現するために、次の6つのステップをご紹介します。

  1. 離婚理由を文書にまとめる
  2. 離婚後の生活をシミュレーションする
  3. 離婚を切り出す
  4. パートナーと話し合う
  5. パートナーの同意が得られたら、お金の問題を解決する
  6. 離婚を成立させる

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6つのステップをクリアしていくことで、熟年離婚をするために何をすれば良いか明確になります。
ここからは、具体的に各ステップでどのようなことをしたら良いかご紹介していきます。

離婚理由を文書にまとめる

離婚をしたいと思って、パートナーに離婚を切り出したとしても、具体的な理由がなければ離婚に同意してくれないでしょう。パートナーに納得してもらうためにも、離婚理由を文書にまとめましょう。
離婚理由をまとめた文書は、離婚を切り出すときにパートナーに渡して、読んでもらいます。

日付、場所、パートナーの言動・行動を書き出す

私のことを馬鹿にするようなことを言われた。あまりに酷い言われ方だったため、思わず泣いてしまった。パートナーの愛情が感じられない。これ以上、一緒に生活したくない。
離婚理由を文書にまとめるためには、現在から過去に遡り、結婚後の生活を振り返る必要があります。
結婚後の生活において、パートナーの借金やギャンブル、不快だと感じたパートナーの言動・行動を書き出しましょう。具体的には、(1)日付、(2)場所、(3)パートナーの言動・行動を書き出します。

日付 → 20××年〇月△日××時頃
場所 → 自宅、私の実家、パートナーの実家、旅行先の○○ホテル
行為 → 酷い言葉で私のことを馬鹿にした。
     私に黙って消費者金融から100万円の借金をしていた。

書き出した言動・行動から、信頼を失うに至った、婚姻関係を続けることが困難になった言動・行動をピックアップします。ピックアップした言動・行動から、パートナーと離婚したい理由を書き出します。

ピックアップした言動・行動 → 酷い言葉で私のことを馬鹿にした。
離婚したい理由 → あまりに酷い言われ方で、パートナーの愛情が感じられないため。

5つの法定離婚事由を探し出す

次に、書き出したパートナーの言動・行動から、民法770条で定められている5つの法定離婚事由を探し出しましょう。

自宅でお前なんか死んでしまえと暴言を吐かれ、平手で叩かれた。 

法定離婚事由は、次の5つです。
1.不貞行為
 不貞行為とは、既婚者が他人と性的な関係を結ぶことをいいます。
2.悪意の遺棄
 悪意の遺棄とは、夫婦間の同居・協力・扶助義務を果たさないことをいいます。
 具体的には、生活費を渡さない、勝手に別居する、家出を繰り返す等です。
3.パートナーの生死が3年以上明らかでない
4.パートナーが強度の精神病にかかり、回復の見込みがない
5.その他婚姻を継続し難い重大な事由がある
1~4以外でも、婚姻関係を続けることができない重大な理由があれば、離婚が認められる可能性がありま
す。
例えば、ドメスティック・バイオレンス(DV)は、婚姻関係を続けることができない重大な理由と認めら
れる可能性があります。
ドメスティック・バイオレンス(DV)とは、パートナーから振るわれる暴力をいいます。

ドメスティックバイオレンスDVの具体的な例

証拠をそろえる

  • メールやSNSの履歴
  • 写真や動画
  • 音声データ
  • 探偵の調査報告書
  • DVを受けていたことを証明するための証拠としては、次のようなものがあります。

    • 医師の診断書や病院の受診歴
    • 被害(ケガや壊れたモノ)の写真や動画
    • メールや電話の記録
    • DVを記録した日記
    • 警察や公的機関への相談記録

    離婚後の生活をシミュレーションする

    離婚理由を文書にまとめたら、離婚後の生活をシミュレーションしましょう。あなたの人生は、離婚後も続きます。離婚後の生活が成り立つのか、お金の問題で悩まずに済むのかを解決するために、離婚後の具体的な生活をシミュレーションします。

    離婚後の生活費をシミュレーションする


    まず、離婚後の生活費をシミュレーションしましょう。
    離婚後に一人で生活した場合の出費ですが、単身世帯の消費支出は、1か月平均約15万5千円です(参考:総務省家計調査報告(家計収支編)2021年(令和3年)平均結果の概要)。年間で計算すると約186万円が必要になります。

    離婚後に一人で生活した場合の出費は約186万円

    一人一人の離婚後の生活費は異なると思いますが、まずは年間の消費支出186万円で生活できるか検討してみましょう。

    あなたが65歳で離婚した場合、男性は平均寿命の81.64歳(厚生労働省令和2年簡易生命表より)までの約17年間、女性は平均寿命の87.74歳までの約23年間の生活費も検討してみましょう。男性は186万円×17年=3,162万円、女性は186万円×23年=4,278万円の生活費がかかることになります。

    男性3,162万円 女性4,278万円

    この生活費を離婚後に手元に残るあなた名義のお金(財産)と離婚後の収入(給与・年金)でまかなうことになります。シミュレーションの結果、離婚後に一人で生きていくことが難しい場合は、離婚について考え直すことも重要です。生活費を見直す必要がある方は、ファイナンシャルプランナー(FP)に相談するのも良いでしょう。

    離婚後の財産分与をシミュレーションする

    次に、離婚後の財産分与をシミュレーションしましょう。財産分与をシミュレーションする前に、現在のあなた名義の財産とパートナー名義の財産を調べましょう。

    (1)不動産(持ち家)を所有している場合は、土地と建物の所有者を調べます。
    調べる方法は、最寄りの法務局で登記事項証明書を取得します。
    権利部(甲区)の「権利者その他の事項」に記載されている所有者を調べます。

    (2)金融資産を調べます。
    預金・貯金の通帳の名義は誰か調べます。

    (3)自動車を所有している場合は、自動車の所有者を調べます。
    調べ方は、自動車検査証(車検証)の「所有者の氏名又は名称」に記載されている所有者、又は備考に記載されている「所有者の氏名又は名称」に記載されている所有者を調べます。

    あなた名義の財産・パートナー名義の財産のうち、婚姻期間中に夫婦で一緒に作り上げた共同財産は、離婚の際に財産分与の対象として夫婦で分けることができます。

    財産分与により、手元に残るあなたの財産は、次のとおりになります。
    (プラス) 離婚後も引き続き所有することになるあなた名義の財産
    (プラス) 財産分与により受け取るパートナー名義の財産
    (マイナス)財産分与によりパートナーに分け与えることになるあなた名義の財産

    離婚後の収入をシミュレーションする

    最後に、離婚後の収入をシミュレーションしましょう。現在、収入のある方は、離婚してから退職するまでの収入(給与)と退職後に受給できる年金額を調べましょう。

    【年金の調べ方】
    日本年金機構の「ねんきんネットで調べることができます。

    現在、収入のない方でパートナーに扶養されている場合、厚生年金記録を分割することができます。年金分割を行った場合に受給できる年金額を調べましょう。

    【参考】
    厚生労働省年金局の「令和2年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、年金分割を受ける側の年金分割前後の受給額の月額平均は、分割前が51,585円、分割後が82,358円で、1か月あたり約3万円増加している。

    年金分割によって、受給できる年金額は増加することになりますが、必要に応じて仕事をして、収入を得ることも考えましょう。
    65歳で離婚した場合の生活費と財産

    離婚を切り出す

    離婚理由を文書にまとめ、離婚後の生活をシミュレーションしたうえで、離婚を決意したら、夫婦間で落ち着いた時間を作り、冷静に離婚を切り出します。

    離婚を切り出す方法としては、次の方法があります。

    • 口頭で伝える
    • 電話で伝える
    • メール・SNSで伝える
    • 手紙で伝える

    離婚を切り出すときに、離婚理由をまとめた文書をパートナーに渡しましょう。

    パートナーと話し合う

    離婚を切り出したら、お互いが冷静に向き合って話し合いをするための環境を整えます。
    パートナーがまともに取り合ってくれない、感情的になり話し合いにならない場合は、別居して離れて生活してみることを考えます。
    別居して離れて生活する場合は、パートナーの同意を得たうえで別居しましょう。
    パートナーに理由を告げずに一方的に別居してしまうと、場合によってはあなたが夫婦の同居義務に反することになり、離婚調停などの際に不利に働く可能性があります。
    直接話し合って口論になってしまう場合は、メールや手紙を使って自分の主張を伝えましょう。

    パートナーの同意が得られたら、お金の問題を解決する

    パートナーが離婚に同意したら、お金の問題を解決します。
    離婚を成立させる前に、「財産分与」と「年金分割」について話し合いましょう。

    財産分与

    婚姻期間中に夫婦で一緒に作りあげた共同財産を、どのような割合で分けるか話し合います。
    財産分与の話し合いがまとまったら、その内容を記載した書面を作成しましょう。
    夫婦間で話し合いがまとまらない場合は、離婚調停・離婚訴訟を検討しましょう。

    財産分与について詳しくはこちら

    年金分割

    年金分割は、離婚した場合に、夫婦二人の婚姻期間中の保険料納付額に対応する厚生年金を分割して、それぞれ自分の年金とすることができる制度です。年金分割は、「合意分割」と「3号分割」の2種類の方法があります。

    【合意分割】

    離婚が成立した後、夫婦の一方または双方からの請求により、年金を分割する方法です。
    合意分割をするためには、3つの条件があります。

    1. 婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)があること。
    2. 当事者の合意または裁判手続きにより按分割合を定めたこと。(合意がまとまらない場合は、当事者の一方の求めにより、裁判所が按分割合を定めることができます。)
    3. 請求期限(原則、離婚が成立した日の翌日から起算して2年以内)を経過していないこと。

    【3号分割】

    離婚が成立した後、サラリーマンの妻である専業主婦の方など、国民年金第3号被保険者であった方からの請求により、年金を分割する方法です。
    3号分割をするためには、2つの条件があります。

    1. 婚姻期間中に平成20年4月1日以後の国民年金の第3号被保険者期間があること。
    2. 請求期限(原則、離婚が成立した日の翌日から起算して2年以内)を経過していないこと。

    年金分割の手続きは、最寄りの年金事務所または街角の年金相談センターに「年金分割のための情報提供請求書」「標準報酬改定請求書(離婚時の年金分割の請求書)」「年金分割の合意書」を提出します。

    慰謝料請求

    慰謝料は,パートナーの不法行為によって被った精神的苦痛を慰謝するための損害賠償で、パートナーの行為によって離婚せざるを得なくなったような場合などに請求することができます。
    パートナーの不法行為があったことが分かる客観的な証拠を集めます。
    パートナーに客観的な証拠を示して、慰謝料について話し合います。
    慰謝料の話し合いがまとまったら、その内容を記載した書面を作成しましょう。
    夫婦間で話し合いがまとまらない場合は、離婚調停・離婚訴訟を検討しましょう。

    慰謝料請求について詳しくはこちら

    離婚を成立させる

    最寄りの市役所・区役所・町村役場で、離婚届を入手します。
    離婚届に必要事項を記載します。
    協議離婚の場合は、離婚届に成年の証人2名に署名してもらいます。
    夫婦の本籍地又は所在地の市役所・区役所・町村役場に離婚届を提出します。

    熟年離婚を決意したら、誰に相談するか?

    離婚について相談できる専門家はいくつかありますが、それぞれ目的に応じて相談するべき専門家が異なります。
    簡単にまとめると次のようになります。

    悩み別・相談すべき専門家

    離婚カウンセラー

    離婚カウンセラーは、NPO法人日本家族問題相談連盟が認定する資格です。夫婦間の悩みなどを聞き出し、カウンセリングを行い、アドバイスやサポートを行います。しかし、離婚カウンセラーは法的な手続きを行うことはできません。

    行政書士

    行政書士は、離婚協議書の作成やその作成のための相談を行うことができます。しかし、離婚調停に出席すること、離婚協議書に基づく裁判を起こす際の代理人になることはできません。

    司法書士

    司法書士は、離婚協議書の作成やその作成のための相談を行うことができます。また、離婚について当事者間の話合いがまとまらない場合に利用することができる家庭裁判所の調停手続きについて、申立書の作成やその作成のための相談を行うことができます。しかし、離婚調停に出席すること、離婚協議書に基づく裁判を起こす際の代理人になることはできません。

    弁護士

    弁護士は、法律事務全般を取り扱うことができます。離婚協議書の作成やその作成のための相談、離婚調停に出席すること、離婚協議書に基づく裁判を起こす際の代理人になることができます。
    離婚の手続きや関連する財産分与、慰謝料、親権などまとめて相談したい場合は弁護士に相談してください。

    まとめ

    熟年離婚を考えている方は、離婚後の生活に不安を抱えている方もいると思います。焦って離婚を切り出す前に、自分の気持ちをしっかりと整理し、離婚後の生活をシミュレーションしましょう。「離婚しなければ良かった」と後悔しないためにも、事前の準備が重要になります。

    熟年離婚の準備を進めていく中で、不安に思うことがあれば、まず弁護士に相談しましょう。

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