トレント利用の損害賠償はいくら請求される?仕組みや相場を解説

トレント利用の損害賠償はいくら請求される?仕組みや相場を解説

トレントでアニメや映画をダウンロードしただけなのに、突然数十万円の損害賠償請求が届いた」——近年、このような相談が急増しています。

トレント(BitTorrent)などのP2P方式では、ダウンロードと同時に自動的にファイルが他者にアップロードされるため、意図せず著作権法違反の加害者になるケースが多発しているのです。実際に、1作品の利用で数十万円の請求が認められた判例もあり、放置や無知は極めて危険です。

本記事では、トレント利用による損害賠償の金額相場や、どのような仕組みで特定・請求されるのかを詳しく解説するとともに、損害賠償を請求された場合の正しい対処法や、弁護士に相談するメリットまで網羅します。突然の請求に悩む方や、請求されるかもしれないと不安を感じている方は、ぜひ参考にしてください。


 

トレントを使っただけで損害賠償を請求される事例が急増

近年、BitTorrentなどのトレントソフトを使っただけで、高額な損害賠償を請求されるケースが増えています。「ただダウンロードしただけ」「視聴しただけでアップロードしていない」という利用者も対象となることがあります。

トレントとは、BitTorrentをはじめとするファイル共有ソフトで、サーバーを介さずユーザー同士が直接データをやり取りする仕組み(P2P)を採用しています。欲しいファイルは複数の参加者から断片的に受け取り、最終的にひとつのデータとして完成させるのが特徴です。さらに、ダウンロード中や完了後は、他のユーザーに対して自分の取得済みデータを自動的に提供する動作が行われます。

この取得済みデータを自動的に提供する行為が著作権侵害となります。著作権侵害をした場合には、損害賠償請求が行われるほか、ケースによっては10年以下の懲役もしくは1,000万円の罰金刑事罰が科される可能性もあります。

例えば、ファイル共有ソフト「μTorrent」を使用してインターネット上に音楽ファイルなどを公開していた大阪府内の男性5名について、2013年6月20日までに大阪地方検察庁にそれぞれ送致した事例があります。

また、2016年2月19日に警察庁が発表した「ファイル共有ソフト等を使用した著作権法違反事件の一斉集中取締り」において、一般社団法人日本レコード協会の会員となっている会社の著作物を違法アップロードした著作権法違反被疑事件として全国で8件の検挙に至っています。

これはあくまで刑罰のみであり、損害賠償をされた場合には別途応じなければなりません。違法アップロード関連の高額判決や判例は以下のとおりです。

それぞれ順に解説します。

令和以降も続く違法アップロード関連の高額判決

令和以降もトレント以外でも違法アップロード関係で高額の損害賠償請求をめぐる判決が下されています。もっとも著名なものでは海賊版の漫画ビューアサイトである漫画村に関する損害賠償請求です。

違法コピーされた漫画などの書籍をインターネットブラウザ上で誰でも無料で閲覧読むことができた漫画村は著作権侵害として社会問題となるものでした。2022年(令和4年)7月28日、KADOKAWA、集英社、小学館は、運営者に対して、漫画村に著作権を侵害された損害賠償として総額約19億2,900万円の支払いを求めて東京地裁に提訴しました。2024年(令和6年)4月18日、東京地裁は原告の訴えを認め、被告に計約17億3664万2277円の支払いを命じました。被告は判決を不服として控訴しましたが、知的財産高等裁判所が被告の控訴状を却下し、判決が確定しています。

別件で、漫画家の赤松健氏が漫画村に広告料を支払って出稿していた広告代理店2社に対して漫画村による著作権侵害を幇助したとして提起されていた損害賠償請求では、2021年(令和3年)12月21日に計1,100万円の支払いを命じる判決が東京地裁で言い渡されています。控訴審となる知的財産高等裁判所も一審判決を支持し、控訴を棄却しています。

また、総合格闘技競技である「Ultimate Fighting Championship(UFC)」の大会及び試合を撮影・編集して、ウェブサイト「ニコニコ動画」に無断で合計84回にわたってアップロードしていた事例では、原告が被った損害の一部である1,000万円の支払いをもとめて訴えた事例では、2013年5月17日に東京地裁が満額の1,000万円の損害賠償を認めています。

さらに、映画を10分程度に短く編集したファスト映画を著作権者に無断でアップロードした所在不明の者1名に対して13社からなる原告が2023年8月24日、東京地方裁判所(杉浦正樹裁判長)は、著作権侵害による損害賠償金5億円の支払いを命じる判決を言い渡しています。この訴訟では3名の被告に損害賠償請求訴訟が提起され、2名については2022年11月17日に5億円の損害賠償を認める判決が別に下っており、行方不明の者1名について追加で損害賠償を認めたものです。

ダウンロードだけの認識が損害賠償の対象となった判例に注意

トレントに関してはダウンロードのみの認識でも著作権侵害を行っており、損害賠償請求の対象となります。トレントは、ファイルをダウンロードをすると自動的に自分もダウンロードしたファイルをアップロードしている仕様です。そのため、自分も違法アップロードを行ったことになり、著作権侵害として損害賠償の対象となります。なお、ファイルをアップロードされたことは、IPアドレスなどによって特定が可能となっており、侵害行為を行ったことを特定されることになります。

なお、送信者がトレントによって自分もアップロードしていることを知らなかったことを主張した裁判において「BitTorrentを利用してファイルをダウンロードした場合、同時に、同ファイルを送信可能化していることについて、認識・理解していたか又は容易に認識し得たのに理解しないでいたものと認められ、少なくとも、本件各ファイルを送信可能化したことについて過失があると認めるのが相当である。」として、損害賠償請求を認めました(知財高裁令和4年4月20日判決)。

トレントを利用した場合の損害賠償の相場

トレントを利用した場合、実際にどれくらいの損害賠償請求が行われる可能性があるのか、気になる方も多いのではないでしょうか。違法アップロードや違法ダウンロードに対する損害賠償請求は、利用したファイルの種類や数量、また再配布(アップロード)の有無など、さまざまな要素によって金額が大きく異なります。たとえば、人気のあるアニメや漫画、成人向け作品といった著作物では、損害額が数十万円から百万円を超えるケースも報告されています。

また、複数の権利者の作品を扱っていた場合には、その分だけ請求額が累積されるリスクもあります。さらに近年では、専門の法律事務所が加害者に対して一律の金額で示談を持ちかけるケースも増えており、「88万円(77万円)」「44万円」などの具体的な請求額が提示されることもあります。損害賠償額の構造や算定根拠については以下のとおりです。

それぞれ順に解説します。

損害賠償額はファイルの種類・数・再配布の有無などで変動

トレントを利用した人に対する損害賠償請求は、民法第709条の不法行為損害賠償請求を基礎とするものです。そのため、損害賠償の対象となるのは発生した損害に対応することになります。動画をアップロードされて著作権侵害が行われた場合、その動画から得られたコンテンツ売り上げ分が得られなかったことが損害額になることが想定されます。しかし、コンテンツ売り上げがどの程度あったかは様々な要因によるので、これを証明するのは非常に困難です。

通常損害賠償請求を裁判で争う場合には、発生した損害額についても請求する側が証明しなければならないのですが、著作権法において証明を容易にするため、損害額の推定等に関する規定を設けています(著作権法114条)。

著作権法第114条によると損害額については次の額が推定されます。

  • 譲渡等数量×単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額
  • 侵害者が得た利益の額
  • ライセンス料相当額

損害賠償額の相場は作品によるのですが、漫画やアニメであれば10万円~150万円、AVであれば20万円~60万円程度が相場です。漫画やアニメは需要が高い上に、出版社や制作会社などは示談による解決よりも刑罰を求める傾向にあるため、損害賠償額が高額になりがちなことがあるので注意が必要です。

複数権利者から請求されると被害額は累積される恐れも

前述した損害賠償額は権利者が一人(1社)であることが前提です。アニメや動画を多数アップロードする場合、多数の出版社や制作会社の著作権侵害をする場合があります。例えば、A社が制作したアニメと、B社が制作したアニメの両方をダウンロードをすれば、被害者はA社とB社となります。被害者が増えればその分損害額が蓄積される恐れもあり、賠償しなければならなくなる額が増えることになります。

88万円(77万円)あるいは44万円で法律事務所から請求されている

実際に損害賠償請求を受けた方の中には、過去には77万円、最近では88万円、あるいは比較的低額な44万円を請求されるケースが報告されています。これらは、トレント利用者に対して法律事務所が示談金として一律に提示している基準額であり、実際の損害額や違法行為の内容とは必ずしも一致するものではありません。

一般的には、著作権者(被害者)が複数存在する場合には77万円〜88万円、1社のみの場合には44万円が基準として示される傾向にあります。こうした金額は、法律事務所から送付される請求書や示談書に記載されており、SNS投稿や法律相談事例でも多く確認されています。

ただし、これらの提示額はあくまで事務所側が独自に設定した金額であり、法的に妥当とされるかどうかは個別の事情によって大きく異なります。したがって、請求に応じる前に、弁護士に相談のうえで減額交渉や法的対応の可能性を慎重に検討することが重要です。

トレントによる違法ダウンロードで損害賠償請求される流れ

トレントを利用した場合、意図せず著作権を侵害してしまうことがあり、その結果として損害賠償請求を受ける可能性があります。特にBitTorrentのようなP2P型のファイル共有ソフトは、ダウンロードと同時に自動的にファイルを他者にアップロードしてしまう仕様であるため、本人に違法の自覚がないまま加害者と見なされるケースが後を絶ちません。突然、法律事務所や著作権者から損害賠償の通知書や示談書が届き、驚きや戸惑いを感じる人も少なくありません。

しかし、損害賠償請求はある日いきなり届くものではなく、そこには一定のプロセスが存在します。IPアドレスの特定から、プロバイダへの発信者情報開示請求、さらには意見照会書の送付、そして最終的な損害賠償の請求へとつながる流れがあります。ここでは、この一連のプロセスについて順を追って詳しく解説していきますので、万が一に備えて把握しておきましょう。

それぞれ順に解説します。

IPアドレスの特定からプロバイダへの開示請求が始まる

違法ダウンロードをしただけでは、損害賠償請求や裁判を起こすために必要な氏名・住所などの情報が得られません。そのため、まず被害者は加害者の特定をする必要があります。トレントには監視システムがあり、これを利用すれば、違法アップロードする際に使用されたIPアドレスの特定が可能です。

IPアドレスがわかるとどのインターネットサービスプロバイダを利用しているかわかるので、インターネットサービスプロバイダに発信者情報開示請求を行います。発信者情報が開示されると氏名・住所がわかるので、書面による督促をされたり、訴訟によって損害賠償請求がおこなわれます。被害者からの書面は内容証明郵便で送られてくることもあります。

意見照会書が届いたら返答期限と内容に注意が必要

被害者がインターネットサービスプロバイダに開示請求をすると、インターネットサービスプロバイダから加害者に「意見照会書」が送られます。意見照会書とは、開示請求に対して、個人情報の開示に同意するかなどの意見を求める書面です。概ね14日程度の返信期限があります。

意見照会書を受け取った場合は、安易に開示に同意するかどうかを判断せず、まずは弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。不同意と回答する場合には、その理由についても適切に主張する必要があります。

なお、意見照会書を無視した場合でも、開示請求に同意したものとみなされる可能性があります。また、仮に不同意を示したとしても、被害者側が裁判を起こして発信者情報の開示を求めた場合、裁判所が開示を認めれば、インターネットサービスプロバイダは個人情報を開示することになります。そのため、対応を誤るとリスクが高まる可能性がある点にも注意が必要です。

損害賠償請求への対応方法は示談交渉か裁判対応のどちらか

損害賠償請求をされた場合には示談交渉で対応すべきか、裁判で対応すべきかどちらが良いのでしょうか。この点について、示談交渉で解決する場合・裁判で解決する場合それぞれに一長一短があります。

示談交渉による解決 裁判で争う
・裁判に比べて時間や費用の負担が少なく済む
・公に記録が残らないため社会的影響を抑えられる
・分割払いや謝罪など柔軟な解決案が可能
・法的根拠に基づいて公平に判断される
・損害額が不当に高い場合などに減額を求めることができる
・一部勝訴による支払い額軽減の可能性もある

示談は話し合いで解決をするため、裁判などの手続きが不要である点で、時間や費用の負担が少なく済みますが、一方で裁判によれば法的根拠に基づいて公平に判断されます。被害者が適正額の損害賠償請求をしている場合には、示談交渉で早く終わらせてしまったほうが手続きにかかる時間や費用が少なく済むでしょう。

一方で過大な請求をしてきている場合には裁判で対応して適正な額で解決したほうが良い場合もあります。示談交渉・裁判どちらで解決すべきかは、被害者の請求内容やどのような解決を希望するかによって異なります。

トレント問題を弁護士に相談するメリットを解説

トレント問題については弁護士に相談することをおすすめします。確かに弁護士に相談・依頼するためには弁護士費用がかかってしまいます。しかし、トレント問題を弁護士に相談すれば、被害者の主張の当否について検討してもらうことができます。

また弁護士に依頼すれば、相手との交渉や裁判手続きについて対応してもらうことが可能です。特に裁判になった場合、著作権法・民法・民事訴訟法などの規定を理解しながらの手続き進行が必要となるので、弁護士の助力は欠かせません。トレント問題を弁護士に相談するメリットは以下のとおりです。

それぞれ順に解説します。

自分で対応するより示談金の妥当性を判断できて減額の可能性も

トレントの違法ダウンロードの場合にもっとも難しいのが示談金が妥当かどうかの判断です。トレントの違法ダウンロードや違法アップロードは、どの程度の件数のファイルをアップロードしたか、被害者となる人が何人いるかによって大きな幅があるのは先にお伝えした通りです。

その一方で、加害者はそこから著作権法によって推定される満額のみの請求をする場合もあれば、慰謝料などを付加してその額を超える過大な請求をすることもあります。相手の主張する示談金の額が適切か判断できれば、その額を減額できる可能性があります。また、相手の主張する示談金の額が適切かどうかは、示談交渉で手続きを続けるか、裁判によって解決すべきかの判断基準にもなります。

弁護士法人AOの無料相談を活用して今すぐリスクを確認しよう

本記事では、トレントを利用したことで請求されるおそれがある損害賠償請求について解説しました。

トレントに違法にアップロードすることはもちろん、その仕組からダウンロードすることも著作権侵害となることに注意が必要です。実際に損害賠償請求をされる場合には、開示請求に対する意見照会書の記載内容や、請求されている損害賠償額が適切かなどの難しい判断があります。そのため、弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士法人AOでは、トレントの違法ダウンロード問題など、IT系問題で損害賠償請求を受けた方からの相談を無料で承っていますので活用してください。

あなたの「かかりつけ弁護士」でありたい
ご相談は当メディア運営の弁護士法人AOへ!

迷っている方へ

● 大ごとにしたくない…
● 慰謝料をもらえなかったら?
● 余計に費用がかかって損をするのでは?

これらの記事も読まれています。