過去の不倫の裁判例から、おおまかな慰謝料額を把握しよう
「配偶者に不倫をされてしまった…」
どうにも許せない状況ですよね。
しかし、どこかで折り合いをつけなければ、不倫問題をいつまでも長引かせることになってしまいます。その折り合いの一つとして一般的なのが、「不倫慰謝料」です。
不倫相手、もしくは不倫をした配偶者から慰謝料を支払ってもらうことで、不倫問題について決着をつけるというわけですね。となれば、1円でも多く回収したいと感じるのも無理はありません。
では、実際に不倫慰謝料はどの程度支払ってもらえるものなのでしょうか?
その判断の手助けをしてくれるのが、「裁判例」です。裁判例とは、過去の裁判における判決の中身ことで、慰謝料を算定する基準になっています。そこで今回は、自身のケースではどの程度の慰謝料になりそうか、その目安を判断するために不倫慰謝料の裁判例をご紹介していきます。裁判例を知ることで、慰謝料の金額を左右する項目にどんなものがあるのかを知り、ぜひご自身の状況に当てはめてみて、おおまかに金額を算定してみてください。
慰謝料金額が高くなった裁判例
まずは、慰謝料金額が高くなった裁判例からご紹介していきます。
不倫による精神的ダメージや不倫相手の責任が大きく金額が高くなったケース
東京地裁平成16年4月23日判決
慰謝料金額:400万円
概要
夫Aと妻Bは、婚姻期間3年4か月の夫婦だった。しかし、Aは職場の同僚であった不倫相手Cと肉体関係を持つようになり、その不貞期間はトータルで2年半にも及んだ。途中、BはCとの不倫関係に気づき、不倫をやめるよう促した。AとCは話し合いの末、一時は関係を断つことにしたが、Cは未練をぬぐいきることができず、Aに関係を継続するよう迫った。その結果、不貞関係は継続されることになった。
その後、BはAの外泊が多いことや携帯のロックなどを不審に感じ、不倫の継続を疑ったためAの携帯電話の中身をチェックしたところ、Cとの不倫関係が継続していることを知った。
これを知ったBは、ひどくショックを受け、アルコールや睡眠薬などを過剰摂取し、自殺を図るに至った。その後、パニック障害、うつ状態、自律神経失調症との診断を受け、投薬治療に頼らざるを得なくなった。
解説
不倫慰謝料の相場は300万円程度を上限としていますが、本件については400万円の支払いが命じられました。理由としては、妻側がショックのあまり自殺未遂をしたり、投薬治療に頼らざるを得なくなったりと、精神的ダメージがあまりに大きいと判断されたためです。また、一度は不倫関係を断ち切ろうとした夫に対し、関係継続を迫った不倫相手の責任が大きいと判断された側面もあります。不倫慰謝料の裁判では、主導的な立場にあった側に高い金額の支払いが命じられるケースが多くなっています。
不貞関係の悪質性が高く、不倫期間が長いため金額が高くなったケース
東京地裁平成21年4月8日判決
慰謝料金額:800万円
概要
夫Aは妻Bと婚姻関係にありながらも、不倫相手との間で子どもを作っていた。またこの不倫関係は、17年もの長い期間に渡って継続した。Aは不倫関係開始後、まともに自宅へと帰ることはなくなり、Bに対して生活費用を十分に渡すことはなかった。Bは不倫を疑うこととなったが、不倫関係の隠蔽をするなどして、ごまかし続けていた。その後、Aは離婚届けの偽造など心無い行為を繰り返していたため、顕著な悪質性が見られるとして、裁判所はAに対して800万円の不倫慰謝料の支払いを命じた。
解説
本件のように、婚姻期間が長い夫婦や、不倫関係が長い場合、慰謝料が高額になるケースがよく見受けられます。本件は、17年もの間、不倫関係を継続していたことに加え、数々の悪質な行為が原因となり、不倫慰謝料としては非常に高額である800万円が認められました。
慰謝料金額が低くなった裁判例
では次に、慰謝料金額高くなったケースも見てみましょう。
相手が既に社会的な制裁を受けているため金額が低くなったケース
東京地裁平成4年12月10日判決
慰謝料金額:50万円
概要
夫Aと妻Bは、婚姻期間3年ほどになる夫婦で子どもが1人いた。しかし、Aは職場の部下Cと肉体関係を持つようになり、不倫期間は8か月にも及んだ。不倫発覚後、AとBの夫婦関係は親族のサポートもあって修復が図られたが、BはCに対して不倫慰謝料を請求するに至った。これを受けた裁判所は、本件不倫においてはAが主導的な立場であり、Cの責任は副次的なものであると判断。また、Cは不倫発覚を契機として、職場を退職し、東京での転職も断念しており、すでに社会的な制裁を受けているとし、慰謝料金額は50万円となった。
解説
本件のように、相手が既に社会的な制裁を受けている場合、慰謝料額の減額事由となる場合もあります。また、本件については、最終的に夫婦関係は修復され、離婚そのものは成立していなかった点も、慰謝料額が低くなった事情の1つと言えます。ただし、何をもって社会的制裁とするかの判断は難しいため、裁判前の段階ではあまり考慮する必要はないと言えます。
婚姻期間が短い・不倫期間が短い(回数が少ない)ため金額が低くなったケース
東京地裁平成24年7月24日判決
慰謝料金額:150万円
概要
不倫相手Cが夫Aと不貞行為をし、夫婦関係を破綻させたとして、妻BはCに対して慰謝料の支払いを求めた。不倫相手Cはすでに婚姻関係が破綻しているものとAからの発言のみで判断し、不貞行為をしていたという実情がある。この点は、確認を怠ったCに過失があると言わざるを得ないが、AとBはかねてより円満とは言い難く、Aは家庭環境の悪化から短期間の家出を繰り返していたばかりか、不貞行為前の段階ですでに別居をし、離婚調停の申し立てをしていた。また、不貞行為の期間も2か月ほどと短期間であることから、もともとの請求額である500万円を認めず、150万円を限度としてBの請求を認めた。
解説
通常、不倫が原因で離婚している場合、慰謝料は高額になるケースがほとんどです。
本件では、不倫そのものが離婚の原因となったとまでは言えない点に加え、不倫期間がわずか2か月ほどであった点が考慮されました。結果として夫婦は離婚することになりましたが、慰謝料金額は150万円にとどまっています。このように、婚姻期間が短い・不倫期間が短い場合は、慰謝料額が低くなる傾向があります。
肉体関係がない(あったことが証明できない)ため金額が低くなったケース
大阪地裁平成26年3月判決
慰謝料金額:44万円
概要
夫Aと女性Cとは職場の同僚関係にあった。Aは何度となくCに対して肉体関係を迫ったが、Cは巧みにかわし続け、結果的に肉体関係に及ぶことはなかった。しかし、Cは明確な拒絶を示す態度をとっていなかったばかりか、何度となくAと逢瀬を重ね、2人きりの時間を過ごしてきた。
その結果、Cとの関係を期待するAは、妻Bに対しての冷ややかな態度を取ること繋がり、Bは心を痛めることとなった。このAのBに対する態度は、Cの拒絶を示さない行動にも因果関係があるものと判断し、肉体関係自体は認められないものの、Cに対して慰謝料44万円の支払いを命じた。
解説
本件は、不倫慰謝料請求であることから、肉体関係があったかどうかが争点となりました。しかし、明確な肉体関係の証明はできませんでした。それにも関わらず慰謝料の支払いが命じられたことから、プラトニックな関係をめぐる判決として、当時は話題に取り上げられました。慰謝料額そのものは低くなってしまったものの、たとえ肉体関係がなかったとしても慰謝料の支払いが命じられためずらしい裁判例です。
当然、肉体関係が認められればさらに高額な慰謝料が見込めたところですが、たとえ肉体関係がない(あったことが証明できない)としても、慰謝料請求を諦めることはありません。
慰謝料の請求が認められなかった裁判例
では、最後に慰謝料の請求が認められなかったケースについても見ていきましょう。
消滅時効が成立していると慰謝料請求ができない
最高裁平成6年1月20日判決
慰謝料金額:0円
概要
夫Aは妻Bがいるにも関わらず、別の女性Cと同棲をするに至った。その後、BはCに対して、不倫慰謝料の請求を行ったが、Bが同棲を知った日を起算点とし、本件請求へと至るまでの期間は、すでに時効が完成していた。よって、Bが持つCに対する慰謝料請求権はすでに消滅しており、慰謝料請求は認められなかった。
解説
不倫慰謝料請求にも当然に消滅時効期間があります。一般に不貞慰謝料の時効は不倫の事実を知った日から3年間、不倫が始まった日から20年間ですが、こちらは古い判例となりますが、消滅時効期間のスタート時点について同棲を知った日からと判断したものです。消滅時効の期間がすでに経過してしまっている場合、慰謝料請求権は消滅、不倫相手から慰謝料を回収することができなくなってしまいます。
不貞があった時点で既に婚姻関係が破綻していると、原則として慰謝料請求ができない
東京地裁平成8年3月26日判決
慰謝料金額:0円
概要
夫Aは妻Bとの不仲を理由に、別居を決意した。そして離婚のため家庭裁判所に調停の申し立てを行ったが、妻Bはこの調停に出頭しなかった。Aは仕方がなく離婚調停を取り下げたが、別居、そして離婚の意思は固く、自身の名義でマンションを購入し、別居をするに至った。しかし、別居後も離婚の話し合いは進展が見込めなかった。その後、Aは女性Cと親しい仲となり、肉体関係を持ち、子どもを出産、認知するに至った。これを知ったBはAに対して離婚慰謝料の裁判を提起したが、AとBとの夫婦関係はすでに破綻していると言わざるを得ないと裁判所は判断し、この慰謝料請求を認めなかった。
解説
不貞があった時点で既に夫婦関係が破綻していると判断できる場合、離婚慰謝料請や不貞慰謝料は認められない傾向にあります。離婚慰謝料や不貞慰謝料というのは、あくまでも婚姻関係が継続している夫婦の一方が不貞行為に及んだ場合やそれが原因で離婚した場合に生じるものです。本件は、すでに夫側が離婚の意思を固めているばかりか、離婚調停の申し立てに加え、マンションの購入といった離婚の意思を強く示しています。婚姻期間中であっても、すでに夫婦関係が破綻している場合、不貞行為が発覚したとしても離婚慰謝料が認められないこともあると覚えておきましょう。
まとめ
現在のご自身の状況に近い裁判例はありましたか?
過去の裁判例からご自身のケースに近いケースを探すことで、おおまかな慰謝料額を把握できます。
しかし、何事においてもまったく同じケースというのは存在しません。上述した裁判例と1点も違わず同じ状況にあるという方はまず存在しません。よって、上述した裁判例の金額がすべてではありませんし、実際には金額が高くなることも低くなることもあります。あくまでも目安として捉えるようにしましょう。
そもそも不倫慰謝料というのは、明確な判断基準があるわけではなく、様々な要素から算出されるものです。また、現実には裁判へと発展することなく慰謝料の支払いが行われたケースは数えきれないほどあります。自分に似通った裁判のケースだと数十万円だからといって、必ずその金額になるわけではありません。
もし、ご自身の状況ではどの程度の慰謝料が見込めるのか、正確な金額が知りたいのであれば、弁護士に相談してみましょう。弁護士であれば、現在の状況を踏まえた上で、妥当な慰謝料額を算出してくれます。もちろん、この金額が必ず回収できるとは限りませんし、実際には妥当な金額よりも上乗せて請求することがほとんどです。相手が最初の請求時点で素直に支払えば、より多くの慰謝料を回収できる可能性もあります。
インターネットを利用して慰謝料の相場を知るのはとても有効な手段ですが、実際に不倫慰謝料問題に悩まされているという方は、弁護士に相談してみることを強くお勧めします。
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